ぶら~りネット探訪

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『立川談志の正体』を読んだ

去年亡くなった立川談志について、弟子である快楽亭ブラックが書いた『立川談志の正体 愛憎相克的落語家師弟論』を読んでみました。

サブタイトルからも分かるとおり、師弟愛にあふれる「立川談志マンセー!」的な本ではありません。毒のある『赤めだか』のような本です。しかし、毒だらけではないという所がこの本の肝ですね。

この本を読むと立川談志はとにかく金に汚い人間だったということが分かります。この本に書かれている約3分の2が立川流の上納金、罰金などの金にまつわるエピソードです。自分の書いた本を弟子に50冊まとめて買取らせたり、やっていることが新興宗教の教祖みたいだと書かれています。ちなみ上納金制度は談志が知り合いのヤクザと飲んでいる時にヤクザの上納金制度を聞いて思いついたと書かれています。

そして他人には厳しく、身内や自分にはとことん甘いという独裁者みたいな性格も改めて感じました。北朝鮮金正日と談志が同じ年に死んだのも因縁めいているとも書かれています。談志はよく「落語は業の肯定」と言っていましたが業というのは談志、自分自身の業のことなんじゃないかと思えてきました。まぁ、それもそれでいいんですが。

談志の弟子の書いた本を読むと不思議なことに、談志の熱烈なファンで弟子になったという弟子はほとんどいません。快楽亭ブラックは当時の落語協会の会長三遊亭圓生が、弟子を取ることを禁止していて、それに唯一反発して弟子を取っていたのが談志だけだったので、やむを得ず談志に弟子入りしたそうです。

落語協会脱退以前の弟子たちは寄席に戻りたかったというのが改めてこの本で分かりました。談志は落語協会脱退以前の弟子には「落語協会の連中はバカだから付き合うな」といい落語協会脱退以降(志の輔以降の弟子)には「兄弟子たちはバカだから付き合うな」と言っていたそうです。「志の輔兄さんが長男、次男が俺、志らくは三男」という談春の発言にブラックは怒り狂ったと書いています。

ブラックが立川流を自主退会する経緯について書かれている部分ではいかに吉川潮が談志の腰巾着で木端役人みたいな人間かということが詳細に書かれています。

談志が最後に真打に認めたキウイの『万年前座』はキウイを贔屓にしている名古屋のラーメン屋の店主ユメスケがゴーストライターとして書いたものだと暴露しています。ブラックはキウイをよくネタにしていて、この本の最後にも落語「キウイ調べ」が収録されています。

談志の落語について書かれている部分は少ないのですが、非常に濃縮されていて的確なものとなっています。『私、プロレスの味方です』の村松友視のフレーズを使って、圓生志ん朝の落語を「落語内落語」名人と論じ、談志の落語を落語が最高の落語なんだという自信にあふれたストロング落語と論じているところには痺れました。

『芝浜』についてブラックは業の否定でドラマとしても薄っぺらと言い切っています。談志は『黄金餅』、『富久』、『鼠穴』といった金に執着する人物が描かせたら天下一品で、『らくだ』のように自分の中に屈折した恨みを持っている人間が出てくる噺も良かったとブラックは書いています。

名も無き落語少年が志ん朝のようなサラブレッドとライバル視され、努力し遂には落語界のカリスマと呼ばれるようになった。そんな自分を投影できる『芝浜』、『鼠穴』などのコツコツ努力した人間が最後は報われるという噺が談志は実は大好きだったんじゃないかという、なぜ談志が晩年、『芝浜』や『鼠穴』を好んで演じ続けたかという事に対しての推論も面白かったですね

立川談志の正体: 愛憎相克的落語家師弟論
立川談志の正体: 愛憎相克的落語家師弟論