吉沢譲治の『新説 母馬血統学』を読んでみました。
吉沢譲治の『競馬の血統学―サラブレッドの進化と限界』が種牡馬から見たサラブレッドの血統についての本だったの対して、『新説 母馬血統学』はタイトルからもお分かりの通り繁殖牝馬側から見た血統の本になっています。
前半の「ジェネラル・スタッド・ブック」やファミリーナンバーの話は歴史の授業を受けているような感じ、正直ちょっと退屈な感じでした。最近の日本の活躍馬の話を例に出したりして飽きない工夫はされていすが、やはり遠い国の遠い昔の話といった感じです。
第4章「成功する母 名牝の条件」からはグッと身近な内容になり面白く感じました。母親が何歳のときに産んだ仔がよく走るか、母親の競争成績はどの程度、産駒に影響するのかといった事が書かれています。
当然ながら母親が若い時に産んだ仔の方が走り、だいだい母が16歳~17歳を境に産駒の成績も下降していくそうです。 母の競争成績は実はそれほど産駒には影響することはなく、グラスワンダー、スペシャルウィーク、テイエムオペラオーの母は未出走でエルコンドルパサー、アグネスワールドの母は未勝利だそうです。
GⅠを勝つような牝馬の産駒が実はそんなに走らないというのは前から気づいていました。メジロラモーヌ、ヒシアマゾン、シンコウラブリイの産駒は下級条件のレースでしかみかけません。最近だとテイエムオーシャンの産駒もダメなようですね。メジロドーベルの産駒、メジロダイボサツはこの前やっと未勝利を勝ち上がっていました。
アーネストリーが勝った第52回宝塚記念の出走馬を見るとルーラーシップとフォゲッタブルの母エアグルーヴで、トゥザグローリーの母はトゥザヴィクトリー、ローズキングダムの母はローズバドで、母親の競争成績が良かった馬が多いレースでした。みんな社台関係ですね。
アーネストリーの母、レットダムールは3勝していますが、クラッシックや重賞レースには出走していません。レットダムールは1994年生まれで、キョウエイマーチやメジロドーベルと同じ世代です。レットダムールは一見地味そうですが、母のアスコツトラップは秋の天皇賞でシンボリルドルフに勝ったギャロップダイナの全妹という血統。しかし、レットダムールの産駒はアーネストリー以外はパッとしません。
下総御料牧場、小岩井農場の古い血統からトウカイテイオー、スペシャルウィークへと繋がっていく話はチラッと知っていましたが、改めて読んでも面白く、とても不思議な感じがします。トウカイテイオーの血統を遡ると1936年の第6回日本ダービーで牝馬として初めてダービーを勝ったヒサトモという馬が現れます。牝馬でダービーを勝つような馬なので、さぞかし大事されたかと思いきや、ヒサトモは戦後の混乱期にの悲劇的な最後を遂げています。ちなみ第74回日本ダービーを勝ったウオッカはシラオキ系なのでスペシャルウィークと同じ牝系にあたります。
「あとがき」と「文庫版のあとがき」で吉沢譲治が自分への母や叔父への思いが綴られていて、これが意外にグッとくる話でよかったです。ちょっと寺山修司の競馬エッセイを思い出したりしました。
新説 母馬血統学――進化の遺伝子の神秘 (講談社プラスアルファ文庫)