近田春夫による筒美京平の評伝というか解説のような『筒美京平―大ヒットメーカーの秘密』を読んでみました。
第1部は近田春夫による筒美京平の研究というか解説で、第2部は近田春夫と筒美京平との縁の深い3人との対談という構成になっています。
第1章は近田春夫独自の筒美京平の解説という解釈が面白いですね。ビートルズの影響は受けていなかったこと、山口百恵、沢田研二、松田聖子、中森明菜へ楽曲を提供していなかったことが驚きでした。吉田拓郎の登場を筒美京平は驚異に感じていたというのも初めて知りました。
筒美京平とは関係ないけど、ラップのリリックとフォークの歌詞は私小説的で同じという近田春夫の解釈もなかなか面白かったです。
やはり、第2部の渡辺忠孝(実弟)、橋本淳、平山みきとの対談で明かされる筒美京平の素顔が非常に興味深く、面白かったです。
渡辺忠孝との対談では幼少期から仕事の話までが語られていました。裕福な家に生まれてピアノを買って貰ってピアノ三昧の日々を過ごした幼少期。筒美京平がいないときに渡辺忠孝がピアノを弾こうと思ったら鍵がかかっていて、「このビアノは僕が買ってもらったものだから、あなたには触らせません」と言われたというそうです。だからと言って兄弟の仲は悪かったわけではないそうです。大学時代の冬にはスキー場のホテルのラウンジでピアノを弾くアルバイトをしていたエピソードも洒落ています。苗場ではなく石打だったそうです。
筒美京平を音楽の世界に引き込んだのは橋本淳で、橋本淳はすぎやまこういちの運転手をやっていて、筒美京平をすぎやまこういちに引き合わせたのも橋本淳だったそうです。当時、学生だった筒美京平はすぎやまこういちの自宅で夜食のBGM代わりにピアノを弾いたそうです。
橋本淳は筒美京平のことを栄ちゃん呼んでいたのも新鮮でした。クレイジーケンバンドが『真夜中のエンジェルベイビー』をライブでカバーしている音源があるのですが、イントロで「エイちゃん、エイちゃん、エイちゃんじないよ」と歌っていたのはなぜなのか、横山剣に聞いたみたくなりました。
デビュー前の平山みきがコロンビア・レコードのデレクターだと紹介された人物がゴム長靴を履いていて、胡散臭いと思って調べて貰ったら本物のロンビア・レコードのデレクターだったといエピソードも面白かったです。『ラストナイト・イン・ソーホー』を見た直後にこの本を読んだのでこのエピソードには少しドキドキさせられました。
平山みきはデビュー前からつい最近まで芸能界には染まらないでと繰り返し言われ続けたそうです。『木綿のハンカチーフ』の歌詞そのまんまんという感じですね。筒美京平自身が全く芸能界に染まらなかった人で、権力とか権威とかには無縁で裏方というか黒子に徹してひたすらヒット曲を作り続けたという所が凄いと言うか素敵です。
詳しくは書かれていはいませんでしたが坂本龍一に対しては好きなことが出来て羨ましいと漏らしていこともあったそうです。
筒美京平がエイミー・ワインハウスを平山みきにすすめていたというエピソードにはグッと来るものがありました。作品を通してでしたか知らない筒美京平という存在が自分と同じ時代を生きていたという実感みたいなものが僅かですが感じられました。
この本で紹介されている『バカラックがビートルズに逢った時』というアルバムやラリー・カールトンが参加している野口五郎の『ラスト・ジョーク』というアルバムが聞いてみたくなりました。