ぶら~りネット探訪

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『映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方』を読んだ

島田裕巳の『映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方』を読んでみました。私が島田裕巳の本を読んだのは『葬式はいらない』以来になります。

この本は町山智浩の『映画の見方がわかる本』の元ネタみたいな本です。この本の解説は町山智浩が書いていてその辺の種明かしも詳しくされています。この町山智浩の解説が非常に感動的で胸が熱くなります。最後の締め方が映画的で全米は泣いていませんが、私は泣きました。

通過儀礼と人生の節に目迎える儀式や試練のことでございます。おもに子供から大人になるための儀式や与えられる試練について語られることが多く、アメリカ映画では通過儀礼をテーマにした有名な映画がたくさんあり、その映画についてこの本では詳しく解説されています。

通過儀礼が成功した映画、上手く描かれている映画として『ローマの休日』、『スタンド・バイ・ミー』、『愛と青春の旅立ち』などがあげられています。逆に上手く描かれていない例としては宮崎駿の『魔女の宅急便』があげられています。「宮崎駿は優れたアニメーターであって、ストーリーテラーではない」と言われることがよくありますが、他の宮崎駿作品やジブリアニメについても脚本的な問題点があげられています。

日本では通過儀礼を描いた映画はあまり多くなく、初期の黒澤明の作品や小津安二郎の映画が例としてあげられています。小津作品については子供から大人への通過儀礼よりも大人になってからの結婚や死に関する通過儀礼を扱った作品が多いそうです。

私は小津安二郎の映画は1本も見たことがありません。海外や映画関係者の間で小津安二郎の評価が高いのは知っていましたが、はっきりした理由はよく分かりませんでした。この本でぼんやりですが、なぜ小津映画が評価されるのか分かった気になりました。この本では、小津映画に出てくるセクハラ発言をする親父(映画公開当時はそんな認識はありません)や小津映画独特のローアグルについての考察も面白かったです。私には小津安二郎がムッツリスケベ親父に思えました。

はっきりした通過儀礼を描かかない日本映画の代表例としは『男はつらいよ』があげられています寅さんは大人になることに失敗した人間ということになります。とは言えシリーズ48作も続くと少しずつ寅さんも成長していったそうです。

寅さんの元ネタとして『坊ちゃん』をはじめとする夏目漱石の作品があげられています。寅さんの元ネタとしては落語の『妾馬 八五郎出世』が有名ですが夏目漱石が出てくるところが新鮮で驚きでした。『坊ちゃん』は日本の学園ドラマの元祖だとは思っていましたが、寅さんにも影響を与えていいたわけですね。

『映画は父を殺すためにある』の典型的な例としてはもちろん『スターウォーズ』のルークとダース・ヴェイダー(アナキン)があげられています。新シリーズのエピード1~4の人気がなかったのは父殺し和解というはっきりしたテーマがなかったからなんでしょうかね。余談ですが"もしも、ダース・ヴェイダーが子育てに積極的だったなら"というテーマの『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』という絵本があります。

町山智浩の解説ではジョージ・ルーカスのエピソードが書かれています。ルーカスの父は厳格な父で自分が経営している文房具店をルーカスに継がせようとしたそうですが、ルーカスの答えはもちろんルークと同じで「No」でした。

映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)