ぶら~りネット探訪

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『ギンギラ★落語ボーイ』を読んだ

三遊亭白鳥の『ギンギラ★落語ボーイ』を読みました。この本はエッセイや自伝ではなく小説です。

正直、あまり期待していませんでした。しかし、読んでみるとこれが面白い。物語は単純です。売れない二つ目の落語家である銀月亭ピョン太の成長物語。

落語をモチーフにしたフィクションと言うと、森田芳光監督の『の・ようなもの』、最近では宮藤官九郎が脚本を書いた『タイガー&ドラゴン』などが思い浮かびます。この『ギンギラ★落語ボーイ』が大きく違うのは暑苦しいスポ根漫画みたいなところです。

読んでいる途中からこれは落語版『あしたのジョー』だと思えてきました。ニコニコ亭という寄席の席亭の娘でヒロインの澤田涼子は白木葉子で涼子と仲の良い真打目前の花太郎という人気落語家は力石徹。花太郎は無茶な減量して高座に上がるというエピソードはもちろんありません。丹下段平やドヤ街のチビ達はいませんが椎名町の「憩の家」の年寄がピョン太を励まし鍛えてくれます。

ピョン太が先輩や仲間の落語家や近所の人達に支えられ、落語とは何か、芸とはエンターテインメントとはどういうものかを学び成長していく姿が非常に真っ当に描かれているところもこの小説の大きな魅力です。お客からお金を貰う芸、そして芸人とはどういうものかというのが繰り返し語られます。

タマフルの「春の推薦図書」で町山智浩が映画や物語の中で描かれる通過儀礼について語っていました。この小説では売れない未熟な落語家が様々な出会いや苦難経て、一人前の落語家になろうとする、通過儀礼やブロマンス的な要素の濃い物語にもなっています。ある意味物語の王道です。

主人公のピョン太は大学の落研出身の落語家で古典落語をメインに話す落語家です。この小説の著者である三遊亭白鳥は新作、創作落語をメインに話す落語家というのが面白いところです。ピョン太の兄貴分の湖畔亭あひるという落語家は白鳥自身がモデルのように思われます。

落語協会落語芸術協会に属していない落語家として登場する豆家小三郎はピョン太より歳が下なのにピョン太よりも芸歴が長いという点などから立川談春が頭に浮かびました。しかし、小三郎は普段はインチキな関西弁を話したり談春をそのままモデルにしたキャラクターではありません。

この小説は古典落語や落語の仕組み(協会がどうなっているとか、前座、二つ目、真打とか)についても読んでいるうちに身に付いてくるとう一面もあります。

クライマックスは「座布団祭り」という二つ目の落語家だけでの落語大会でビョン太、花太郎、あひる、小三郎が腕を競うという展開。勝負の決着の付き方も『あしたのジョー』みたいな感じられました。と言ってもピョン太が燃え尽きて真っ白な灰なるわけではありません。正確に言うと梶原一騎(高森朝雄)がちばてつやに渡した最終回の原稿にあったと言われている丹下段平ホセ・メンドーサとの試合が終わった後にジョーかけた「お前は試合では負けたが、ケンカには勝ったんだ」という言葉が思い浮かびました。

白鳥の落語はポッドキャストで何回か見たことがあります。あんな破天荒な落語を作って演じているのに、なんでこんな真っ当で熱い小説が書けるのかが不思議です。

ギンギラ★落語ボーイ
ギンギラ★落語ボーイ