ぶら~りネット探訪

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『この世界の片隅に 中』を読んだ

こうの史代の『この世界の片隅に 中 』を読んでみました。

この巻では昭和19年7月から昭和20年4月までを描いています。最初に簡単に主人公のすずをイジメる義理の姉、徑子の結婚、夫との死別、北條家へ戻ってくるまでが8コマで描かれています。

海岸ですずが海浮かぶ軍艦をスケッチしていると憲兵に見つかり、スパイではないかと疑われるエピソードがちょっとショッキングです。(その後の展開はかなり笑えます)スケッチをしながら「あれが利根、こっちが日向」と軍艦をシルエットだけで見分けられるすずの能力にも驚きます。

この巻もっとも重要なエピソードは闇市に砂糖を買いに行ったすずが遊郭に迷い込み、すずの夫である周作と昔関係があった白木リンと出会うところです。白木リンはお客に書いてもらったと言って、自分の名前と住所、血液型が書かれた紙片をスズに見せます。(リンはほぼ文盲です。)この紙片が周作のノートの裏表紙をちぎったものだと、すずが気がつくシーンさりげなくて、映画的な感じかして味わい深いものがあります。

最初に読んだ時はこの部分を何気なく読み飛ばしてしまって、すずが周作とリンの関係にどうして気が付いてのか分かりませんでした。

この漫画は説明的なセリフをなるべく使わずに、絵そのもので物語を展開しているところが凄いですね。絵に描かれている情報量が多く、絵をよく見て物語を読み解いかなくてはならない構造になっているので、セリフだけを追って絵の隅々に注意を払っていないと意外なところで肝心な事を読み飛ばすことになります。

しかし、この巻では印象的なセリフや会話もたくさんあります。すずとリンが初めてであった時の会話が何とも言えない味わいがあります。リンは「子供は困れば売ればいい」と軽く言ってしまいます。その後に、「売られてしまった子供でもそれなりに生きてる、誰でも何かが少し足りないぐらいでこの世に居場所はそうそう無くなりはせんよ」とも言っています。

すずの幼馴染だった水原哲は海軍に入って重巡洋艦青葉の乗組員になっています。水原哲は入湯上陸で呉に帰ってきた時に北條家へやって来ます。水原哲は「わしが死んでも一緒くたに英霊にして拝まんでくれ、笑ろうてわしを思い出してくれ」とスズに告げるシーンにもグッとくるものがありました。

人生相談の相談と回答でまるまる一つのエピソードになっている回にも驚きました。相談者は老若男女問わず色々な人がいるのですが、回答者はスズの義理の姉、徑子となっています。これはけっこう凄いアイディアです。人生相談好きの私にはたまないものがありました。

さらに「愛国いろはかるた」だけで構成されている、昭和20年の正月の回も凄いことになっています。「さ」は「櫻と散った小楠公」となっていました。小楠公とは楠木正成のことです。戦前、戦中は楠木正成は人気があったようです。

「か」は「輝く胸の傷痍記章」となっていのます。傷痍記章とは戦争で怪我や病気になった軍人さんで、傷病賜金の受給権の確定した者に授与される徽章のことのようです。

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)