ぶら~りネット探訪

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『歌謡曲――時代を彩った歌たち』を読んだ

高護の『歌謡曲――時代を彩った歌たち』を読んでみました。

TBSラジオ『Dig』」で藤木TDCが紹介していたのがきっかけで、この本の存在を知りました。実は岩波新書を読むのは初めてです。

謡曲という言葉も最近ではほとんど聞かないですね。ポップスやロック系の邦楽はJ-POP、演歌は演歌と最近ではジャンル分けされていますが、J-POPという言葉できる以前は演歌もアイドルの歌うポップスも歌モノは全部、歌謡曲と呼ばれていました。フォーク、ロック系はニューミュージックと呼ばれていました。歌は世につれ世は歌につれ言いますが、ジャンル分けやジャンルの名前も世に連れという感じですね。

この本は戦前のSP盤の時代の歌謡曲から80年代のダンスミュージックの要素を取り入れたアイドル歌謡までの時代を彩ったヒット曲を中心に歌謡曲の歴史を解説した内容となっています。こういった本やテレビ番組などはいままでもあったと思いますが、この本の大きな特徴は歌手、楽曲、作詞家、作曲家などの情報だけでなく、音楽理論、使用された楽器、録音機材、レコード会社、芸能事務所についての情報までも細かく解説されているところです。歌謡曲の構造、その発展の様子が多角的に立体的に見えるところが非常に面白いですね。

新しい感覚の作曲家の登場や天才歌手の存在だけで歌謡曲が発展していったわけではなく、録音機材や楽器の進化、芸能事務所のレコード会社の思惑や戦略、そして海外のポピュラー音楽から影響などが絡みあいながら歌謡曲が進化、発展していたことがこのほんでは分かります。

私はけっこう最近まで歌謡曲、演歌といったジャンルとは疎遠で偏見みたいなものもありました。しかし、最近は昔の歌謡曲、演歌も聞くようになってきていたところなので、余計にこの本は面白く感じられました。トリビア的でそれでいて目からウロコな情報が散りばめられているところも嬉しいですね。美空ひばりのデビューはブギウギ(『河童ブギウギ』)で、美空ひばりの作品は時代物、民謡、ジャズ、リズム歌謡が融合されたミクスチャー音楽とか書かれているところには驚きました。

島倉千代子の歌手生活15周年の『愛のさざなみ』はマルチトラックレコーダーで録音されていて、島倉千代子のボーカル以外はロスアンゼルスで録音されたそうです。アレンジ、演奏は現地のセッションミュージシャンによるものだそうです。島倉千代子にはさほど興味がなかったのですが、こんな情報を知ってしまうと『愛のさざなみ』という曲が聞いてみたくなります。

中森明菜の『十戒(1984)』はストリングスと高中正義のギター以外はフェアライトCMIが使われていて、フェアライトCMIを使った作品としては坂本龍一の『音楽図鑑』よりも早かったそうです。フェアライトCMIを使っていたのは高中正義というのも意外でした。。フェアライトCMIとはサンプラーシーケンサーが一緒になった機械でDTMの祖先みたいなものです。この本はシンセサイザーに関する記述はけっこう多く、歌謡曲シンセサイザーを導入が割と早かったことが分かります。

十戒(1984)』を改めて聞いてみましたが、高中正義のギターがあまりにも強烈で、ドラムのツーバスみたいな変則的なオカズ以外はあまり印象に残りませんでした。中森明菜の作品では細野晴臣の『禁区』が好きです。YMOの『過激な淑女』と藤村美樹(元キャンディーズ)の『夢・恋・人』をあわせて聞くとモアベターです。

写真が多く載っているのもこの本の特徴ですね。レコードジャケットが中心なのですが、若き日の筒美京平の写真が載っていたのには驚きました。筒美京平については写真だけではなく、もちろん本文のほうでも詳しく解説されています。ヒット飛ばし続けられる要因の一つとして、アレンジに関しては旬のアレンジャーと組んでいることがあげられています。鷺巣詩郎と組んだ作品もあるそうです。

この本で一つ残念なところは80年代半ばで終わっているところです。これ以降の日本の大衆音楽についても解説してもらいたいですね。続編を期待しています。

歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)
歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)