今年8月に亡くなってしまった今敏監督の『パーフェクトブルー』をDVDで見ました。
11月に早稲田松竹で今敏監督作品の追悼特集上映が行われていましたが、この作品は上映されていませんでした。
町山智浩さんが『小島慶子 キラ☆キラ』でダーレン・アロノフスキー監督の最新作『ブラック・スワン』を紹介していたときに、元ネタは『パーフェクトブルー』と話していました。ダーレン・アロノフスキーは『パーフェクトブルー』のリメイク権を買っているためパクリ、著作侵害にはあたらないそうです。
そんなこんなで、『パーフェクトブルー』に対する興味が高まってきた中、たまたま立ち寄ったヨドバシカメラに1本だけDVDがあったので買ってみました。
B級アイドルグループの「チャム」所属する霧越未麻はアイドルの活動が頭打ちになっていたため、事務所の方針で「チャム」を脱退し女優としての転身をはかる。しかし、女優としてのトレーニングが十分でなかったり事務所の力が弱かったりするため、ドラマの中でレイプシーンを演じたり、ヘアヌード写真集を出したりするはめになり、そのなかで霧越未麻は精神的変調きたし、現実と虚構の境目が分からなくなってしまうというお話。
どこまでがドラマの中の話でどこまでが現実の未麻の周りで起こっていることなのかの境目が曖昧になっていくところが非常に良く出来ていて面白いですね。何度も同じシーンを繰り返したり、夢から醒めても、さらにそれが夢の中という所は、この後の今敏作品の『千年女優』、『パプリカ』でも繰り返されています。
メタフィクション、入れ子構造的な部分としてはヒロインの未麻の声優を元アイドルの岩男潤子が演じているという点もはずせません。岩男潤子はアイドル声優だったイメージが強いようですが、声優をやる前は「いわお潤」の芸名でセイントフォーのメンバーでした。メンバーの脱退に伴って途中からセイントフォーに加入していました。脱退したのはメガネをかけていた板谷祐三子。板谷祐三子はアイドルなのにメガネをかけていたので印象に残っているのですが、いわお潤の記憶は全くありません。ちなみに岩男潤子と鈴木幸恵以外のセイントフォーのメンバーはそのヌード写真集を出しています。
この映画を見た後に吉田豪の『元アイドル』や小明の『アイドル墜落日記』といった本を読むとアイドルの仕事の大変さがより感じられると思います。
DVDの特典映像で今敏が自ら解説する『パーフェクトブルー講座』というものが入っていて、アシスタント役を永井流奈という当時のグラビアアイドルがつとめています。今敏の解説がほとんどセクハラに見える部分があり、これもまた入れ子構造なのかと感心しました。永井流奈は芸能界を引退しています。
『パーフェクトブルー講座』の中では『レクイエムフォードリーム』を撮った後にダーレン・アロノフスキーが今敏に会いに来たときの事にも触れています。『レクイエムフォードリーム』に『パーフェクトブルー』に似たシーンがあることをダーレン・アロノフスキーはオマージュだと言っていたそうです。
キャラクターのベースデザインは江口寿史で企画協力は大友克洋。今敏、江口寿史、大友克洋の三人は『老人Z』というアニメ映画にもかかわっていました。この時は原作、脚本、原案が大友克洋、キャラクター原案が江口寿史、美術設定が今敏でした。
『パーフェクトブルー』は原作が竹内義和というためか、芸能レポーター役で一瞬だけ北野誠が出ています。そう言えば大友克洋は『サイキック青年団』のヘビーリスナーでしたね。