TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に著者である笹山敬輔が出演し、この本の紹介をしていたときの話がとても面白かったので読んでみました。
元々、私はアイドルに関する本が好きでこのブログでも吉田豪の本を中心に紹介してきました。この本は現代のアイドル本に負けず劣らずスキャダラスでショッキングでした。
明治時代の娘義太夫、大正時代の奇術師の松旭斎天勝、浅草オペラ、初期宝塚歌劇団と松竹歌劇団、新宿ムーラン・ルージュの明日待子などについて現在のネットスラングを使って実に分かりやすく解説したのがこの本です。芸能史にアイドルが現れたのは南沙織の登場以降とよく言われていますが、明治からアイドル的なものは存在し、それに熱狂する若者も今と変わらずに存在したそうです。
娘義太夫の追っかけであるドースル連の若者たちの行動が今のアイドルヲタの行動とさほど変わりがなく、当時はインターネットの代わりに新聞が彼らの情報交換の場となっていて、現在の2ちゃんねるの様な罵詈雑言、個人情報の暴露なども行われていたのには驚きます。
私は落語が好きなもので『寝床』という演目を通じて義太夫については存在は知っていました。ビートたけしが自分の婆さんが義太夫をやっていたという話も聞いたことがあります。立川談志の『ひとり会』のCDで2代目桂枝太郎との対談が収録されているものがあり、この対談で桂枝太郎は自分が「ペラゴロ」(浅草オペラの追っかけ)だったことを話していました。
宝塚歌劇団の成功の後に各地で宝塚を真似た少女歌劇団がいくつも作られたというのは、ちょっと前のご当地アイドルブームを思い出しました。あんまり関係ありませんが阪急東宝グループの創始者である小林一三が山梨県の出身だということをこの本で初めて知りました。阪急も宝塚も本拠地は関西なのでてっきり関西出身だと思っていました。ちなみに松岡修造は小林一三の曾孫です。
表紙の写真は戦前、戦中に新宿のムーラン・ルージュで活躍した明日待子です。彼女は広告のモデルとしても活躍し、カルピスやカゴメキッコーマンの広告に出ていたそうです。当時、経営難だった小田急の車内放送も彼女が担当したことがあるそうです。このエピソードから笹山敬輔は連ドラの『あまちゃん』に触れています。『あまちゃん』に主演した能年玲奈もカルピスのCMに出ていました。
ムーラン・ルージュの舞台を見に来ていたこれから出征していく若者、一人一人に「ご苦労様、ご武運長久をお祈り致します」と挨拶し、自身も空襲の中、舞台に立ち続け、ムーラン・ルージュが焼けてしまっても焼け残っていた浅草の舞台に立ったというエピソードは胸が熱くなりました。