ぶら~りネット探訪

音楽、競馬、映画などについて非常にテキトーにダラダラと綴っていくブログでございますですよ。

『一命』を見た

三池崇史監督、市川海老蔵主演の『一命』を見ました。

タマフル三池崇史監督のインタビューをやっていましたが、この映画につていては具体的な内容には触れているようで、触れていない絶妙なインタビューでした。しかし、小島慶子キラ☆キラの吉田豪のコラムの花道で市川海老蔵を取り上げたときに、「狂言切腹」というこの映画に関わる重要なキーワードが出てきて、ちょっと困りました。『切腹』という映画のリメイクなので「切腹」が重要なキワードであることは分かっていましたが、「切腹」の前に「狂言」が付くことによって、頭にあった勝手な私のこの映画のイメージが混乱してきました。

スタッフ、キャストと「狂言切腹」以外はほとんど予備知識のないままに映画に望みました。とりあえず3Dで見ました。

私はこの映画で初めて市川海老蔵の演技を見ました。瑛太役所広司とは全く違う雰囲気や間の演技は非常に新鮮に感じました。特にセリフ回しが独特で海老蔵が喋りだすと空気が全く変わってしまうような感じでした。

福島正則の家臣だった海老蔵演じる津雲半四郎は福島家が取り潰しになったために浪人になってしまう。上役だった中村梅雀演じる千々岩甚内が病死すると、息子の求女(瑛太)を引き取り、娘の美穂(満島ひかり)と暮らしていく。やがて求女と美穂は結婚、子供も生まれ貧しいながらも、ささやかな幸せ味わっていたが、美穂や生まれたばかりの子供が病魔に襲われる。求女は「狂言切腹」で医者代を稼ごうと井伊家へ行くというお話。(映画の時系列どおりではありません)

前半の瑛太切腹シーンまでは凄まじい緊張感で、画面に釘付けになりましたが、中盤の回想シーンが非常に長く、正直、退屈でした。不幸が海老蔵一家を襲う所のテンポが今一つなのが致命的でした。不幸の波状攻撃、不幸のスパイラルが畳み掛けるように襲ってくる感じがもっと欲しかったですね。確かに中だるみした後に、海老蔵が井伊家へ乗り込んでいく所はカタルシスを産む展開ですが、中だるみしすぎた感じがしました。

役所広司演じる井伊家の家老、斎藤勧解由が中途半端な悪人というのもいただけなかったですね。斎藤勧解由が中途半端に悪いやつのおかげで沢潟彦九郎を演じた青木崇高の嗜虐的な面が際立って、青木崇高にとっては非常に得した感じに見えました。ちなみに青木崇高は朝ドラの『ちりとてちん』で貫地谷しおりの相手役をやっていました。

役所広司が猫を抱いていたり、瑛太満島ひかりの夫婦が野良猫をかわいがっていたり、猫が意外に印象深い映画でもありました。井伊家の猫関係と言えば招き猫の由来になった豪徳寺の猫とゆるキャラひこにゃんですね。タマフルのインタビューで三池崇史監督はひこにゃんのファンだと言っていました。

時代背景や設定は違いますが、最近見た『カンパニーメン』とちょっと似たものを感じました。リストラされたサラリーマンと食い詰めた浪人の悲劇というところに共通点を感じました。『カンパニーメン』はラストに希望が見えますが、『一命』には全く希望はありません。

食い詰めた浪人の悲劇という点では『人情紙風船』という映画もありました。『一命』の海老蔵一家は長屋の住民たちの交流も殆ど無く(笹野高史演じる長屋の老人と一言二言交わす程度)孤立している様子は、現代の日本の家庭のようにも見えました。格差社会と言うか、セーフティネットが機能せず、転落し始めると際限なく転げ落ち最後は命まで失ってしまうというこの映画は、時代劇ですが、現代の事を語っているように見えました。

全体的に重く、息苦しさと辛気臭さを感じる映画です。「狂言切腹」を繰り返して手にした金で吉原で遊んで、スッテンテンになって、また「狂言切腹」でもしようとしたら本当に腹を切るハメになってしまうといった、ピカレスクロマンのような、落語のような話が私は好きです。

一命 (講談社文庫)