ぶら~りネット探訪

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なかにし礼の『世界は俺が回してる』を読んだ

以前、水道橋博士が『小島慶子キラ☆キラ』の中で紹介したり、『梶原しげるTALK to TALK』のゲストでなかにし礼自身がこの本やこの本の主人公である渡辺正文について語っていたのを聞いて面白そうなので読んでみました。

TBSのプロデューサーだった渡辺正文の仕事ぶりと昭和のテレビと芸能界についての小説です。登場人物の名前は実名でフィクションなのかノンフィクションなのかはっきりしないところがこの小説の魅力なのかもしれません。

テレビの黎明期から音楽番組の演出に携わり、大阪万博の音楽イヴェントのプロデュースを経て、東京音楽祭を成功させたギョロナベこと渡辺正文の姿を通して昭和のテレビ、歌謡界をふりかえるという最近流行りの昭和ノスタルジーものです。

正直、かなり残念な小説ですね。素材としては面白いのですが、主人公が世界を回していると言うよりも女の周りを回っているといった感じです。バーニングの周防郁雄、ケーダッシュ川村龍夫も登場しますが、暴露的な話もほとんどありません。そして、主人公の渡辺正文が全く魅力的な人間に見えないのがこの小説の最大の問題ですね。

渡辺正文の叔父は4代目の電通の社長だった吉田秀雄。渡辺正文は吉田秀雄のコネでTBSに入社します。渡辺正文の父親は山師の人物のように書かれていますが、渡辺正文は特に不自由なく育ち、我侭で、寿司はトロしか食べず、野菜もほとんど食べない偏食家。そして無類の女好き。音楽的な才能があるように書かれている部分があるのですが、その根拠はほとんど具体的に書かれていないので説得力に欠け、カリスマ性も感じられません。単純に高圧的で偉そうなプロデューサーにしか見えません。テレビに全てを捧げた男みたいに書かれている所がありますが、そんな感じはまるでしません。コントに出てくるような偉そうで嫌味なプロデューサーって感じですね。

読んでいる途中で気が付いたのですが、ここで書かれている渡辺正文の姿はバブルのころの『課長島耕作』に非常によく似ています。特に凄い能力があるわけではないのに仕事はどんどん成功、いい女はとはすぐにセックスできて、ピンチになると誰かが(偉い人や女)助けくれます。そう言えば中盤で渡辺正文の一人目の奥さんがガンで亡くなるというエピソードがあります。嫁の余命があと何日みたいな。申し訳ありませんがこの部分は韓流ドラマかケータイ小説のような陳腐な感じです。渡辺正文という人は通夜というか喪服に欲情するようで、奥さん、そして母親の通夜のあとセックスしています。不思議な滑稽さがあります。

SM好きの女に縛り上げられてホテルの部屋に放置されるエピソードは笑えます。渡辺正文はジャズマンということなので、『レフト・アローン』と絡めたエピソードかと思ったのですが特にそんな展開もセリフもありません。なんか惜しいですね。

もう一つ惜しいのは、渡辺正文は物語の途中からズラを被っていたという事実です。渡辺正文はラストの病室のシーンで自分が愛した女たちに囲まれて2人目の奥さんにズラを外してもらいます。でもズラに関するエピソードがこの他に1つしかないので、ラストシーンでズラを外してもらうのはあまり効果的には思えません。最初にズラを被るシーンとラストだけならかなり効果的だと思います。またはズラネタをもう少し頻繁に出して笑いに結びつけるとか。新聞に連載されていた小説ということなので、なかにし礼は伏線のつもりで仕込んでおいたズラを半ば忘れかけていたような気がします。

東京音楽祭が渡辺正文のキャリアの頂点ということですが、これは渡辺正文の発案ではなく当時のTBSの社長が元は考えたもののようです。ウィキペディアを見ると1991年までやっていたみたいですね。

スティービー・ワンダーがゲストで出場していたのはかすかに記憶がありますが、あとはほとんど記憶にございません。

1978年にケイト・ブッシュが出場していて、ケイト・ブッシュは東京音楽祭以外日本で歌っていないそうですが、残念ながらケイト・ブッシュのことはこの本には書いていません。

1977年にはランナウェイズが出場しています。ランナウェイズはダコタ・ファニングクリステン・スチュワートの主演で今年、伝記映画が公開されているんですよね。もちろんこの本でランナウェイズについて一言も触れられていません。東京音楽祭についてはフリオ・イグレシアスや、スティービー・ワンダーの話がメインになっています。

ナンシー関の『何もそこまで』を読んだ時に、ナンシー関は外タレについての知識がほんどないので、日本の芸能界で例えるなら誰になるかとよく考えるというコラムがありました。そこでフリオ・イグレシアスについては「とんでもなく売れている中条きよし」と書かれていました。

テレビのロケでフランスを訪れたときにジェームス・ブラウンのライブを見たと言うエピソードがほんのちょっとだけ書かれています。ここでジェームス・ブラウンは「ファンクの帝王」、「ジャズ・トランペッターのマイルス・デイヴィスさえその影響をうけたという黒人芸術家だ」とか書かれています。黒人芸術家というのは褒め言葉なんですかねぇ?どうもなかにし礼シャンソンと歌謡曲意外はあまり得意ではない感じですね。

世界は俺が回してる
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